緩和ケア病棟とは
基本的には、「がん」と診断された時から、『緩和ケア』ははじまっています。
治療に伴う身体の痛み、心の痛み、お金や仕事や家族のこと、生きる意味、将来への不安などがあるためです。
緩和ケア病棟は、「予想される生命予後が概ね3ヶ月以内」の患者さんが主な対象となります。もちろん予後は医師でも完全に予測できるわけではありませんので、「あくまでも」の目安となります。
その他の入棟基準として、
・痛み・息苦しさなどの症状コントロールが必要であること
・ご本人が病名・症状について理解し、緩和ケア病棟への入院希望があること
(ご本人に告知をしていること。例外もありますが。)
・がんの積極的治療(抗がん剤や放射線治療など)を終了した方
があります。
そして、がんの進行に伴う
・身体的な苦痛の緩和
・精神的な不安の軽減
・社会的な問題の解決
・家族ケア
これらが、基本的な緩和ケア病棟での医療内容となります。
どのような医療行為を行うか
基本的に緩和ケア病棟では、「治癒」を目的とした医療行為を積極的には行いません。
「痛み」や「不快な症状」を和らげるために、必要なケアを中心に提供していきます。
具体的には、
・疼痛コントロール
・栄養管理
・褥瘡の予防やケア
・胸水や腹水の管理
・日常生活の援助
など、患者さんの様子を見ながら、患者さんとお話しをしながら、日々の看護・医療を行います。
また、「必ず緩和ケア病棟で最期を迎える」わけではなく、『病棟での緩和ケアが不要となり退院』する方も、『家で最期を迎えるために退院』する方もいらっしゃいます。
全てにおいて、患者さんとご家族が、よりよく、より穏やかに、より納得できるように、医療チームでサポートをします。
看取りからご出棺まで
看取り、最後のひと呼吸
ご家族に見守られて、看護師に見守られて、一人で、など様々な最期のひと呼吸があります。
(昔、TVで観たような、モニターの波形がフラットになったら、ピッピッピッピーで「ご臨終です」、のようなものではなく、本当に自然に穏やかな最期のひと呼吸です。)
そして、最期の瞬間を一緒にいることよりも重要なことは、それまでをいかに一緒に過ごすか、だと思います。
お水取り
生前、好きだったお飲み物、ビール・焼酎・コーヒー・ジュースなど、様々です。
ご家族全員、医療者で順に、綿に含ませたお飲み物を、お声をかけながら唇にチョンチョンと触れます。
故人は穏やかなお顔で、喜んでおられるように感じます。
湯灌
施設にもよりますが、お風呂に入って、全身をお綺麗にします。看護師が行いますが、希望されるご家族も入られる場合もあります。
エンゼルケア
こちらも看護師が、またはご家族が、お化粧をします。
血色がきれいになって、まるで生きているかのようになり、にっこり穏やかに微笑んでいる方がほとんどです。
ご家族も生前を思い出して喜ばれることも多く、また一緒にメイクをすることも、グリーフケアになります。
私も103歳の最愛の曽祖母が旅立った時に、看護師さんと一緒に身体を綺麗にさせてもらって、メイクをしたおかげで、本当にグリーフケアが出来たと思っています。
お見送り
こちらも施設によりますが、外来入口とは別の、静かな出入り口からの出棺をお見送りします。
患者さまには、感謝の気持ちと穏やかなその後をお祈りし、ご家族には、労いのお言葉をお伝えさせて頂きます。
ご家族と一緒に、涙を流すこともありますし、そしてご家族のケアは、これからも続きます。
誰が何をしてくれる?
医師
病状評価、痛みやさまざまな症状のコントロール、本人や家族に対する病状説明など
看護師
身体的・心理的苦痛のケア、各専門職間の橋渡し、家族ケアなど、チームの中心的役割
薬剤師
痛みをはじめとした、さまざまな症状をコントールするお薬や、副作用軽減のアドバイス
リハビリセラピスト
歩くこと、トイレ動作など、人間の基本的動作の維持や、リラクゼーション
管理栄養士
現在の食欲を配慮し、好きなもの、食べたいもの、食べやすい形態など、患者と相談しながら、食べる喜びにフォーカスした関わり
ボランティア
ティサービスやお菓子の提供、病棟内のお花のお手入れなど、家庭に近いようなホッとするサービスの提供
その他
クラーク:入院に関する書類の手続きをし、不安や負担がなるべく少なくなるようなサポート
MSW:銀行への付き添い、行政との手続き、後見人とのやりとり、独り身の場合の葬儀の手続き等
Not Doing, But Being.
緩和病棟で、最も大切なこと。それは、ただそばにいさせて頂くこと。だと思います。
もちろん、痛みや呼吸苦など様々な症状緩和に努めた上で。
ただそばにいて、お話しを聴かせて頂く。ただそばにいて、手を握る。ただそばにいる。
患者さんのスピリチュアルペインが、少しでも癒されるようにと願い、一人一人の患者さんと向き合います。
大切なケア者のケア
ケア者とは、患者さんをケアするご家族。
そして、患者さんとご家族をケアする、医療従事者(特に看護師さん)です。
ご家族
がんの治療を経て、最期を迎える大切な時間です。
大切な人を失う喪失感、病院に会いに来る時間や体力など、最も近いご家族も心身ともに消耗していく場合もあります。
ご家族の悲嘆のケアや、心身の負担軽減、社会的な悩みの解決など、みえない部分のケアをさせて頂きます。
看護師
特に看護師さんは、24時間365日の交替勤務で、最も患者さんとご家族と共に過ごします。
報われないジレンマや無力感、主治医と患者さんやご家族との緩衝材的役割(板ばさみ)による疲弊、一晩中5分おきの頻コールや、患者さんの心ない暴言などなど、キレイなだけじゃない医療現場の現実があります。
セルフケアももちろん大事、そして共に働く仲間たちとの分かち合いが、とてもとても重要になります。
私は、看護師さんのケアも意識していて、スタッフステーションや休憩室で、声をかけて話しをしたり、悩み事や愚痴を聴いたり、雑談をして大笑いしたりしていました。
リハビリセラピストやボランティアさんとの、コミュニケーションも毎日の大切な時間でした。
相手も自分も癒される。だからまた患者さんやご家族と向き合える。よい医療チームは、そのような関係を築いているのだと思います。
チーム力で支える
医療人も人間ですから、それぞれの、考え方やあり方、そして医療観・人生観・死生観があります。
その中で、患者さんのケアに対する意見の食い違いなどが出てくる時もあります。
その時は、日々のコミュニケーションの中で修正したり、毎日の多職種カンファレンスで意見や考えを言い合い、「患者さんのために」、方向性を定めていきます。
『患者さんが悔いなく生ききる、ご家族も悔いなく。』
そして、ご家族が少しでも楽しい気持ちをもてるような、思い出づくりのお手伝いもさせて頂く場でもありたいと考えています。
参考になれば、幸いです。