多くのアスリートが影響を受けている
2023年6月に、「Nutrients」に掲載された研究論文です。
【対象】
対象者:アスリート1,003人
年齢幅:15 〜 44 歳
平均年齢: 18.9 ± 5.8 歳 ( 女性51.3% )
【方法】
・18歳未満(青年期)と、18歳以上(成人)の年齢層に分類
・体重変動に神経質なグループと、そうではないグループに分類
・摂食障害(拒食症)、ボディイメージ、外見に対するプレッシャーについての意識
・嘔吐、下剤の誤用、過度の運動、食事制限、プレッシャー、頻回な体重測定の有無
【結果】
・嘔吐、下剤の誤用、過度の運動は、成人よりも青年期の女性アスリートに多く見られた。
・食事制限は、青年期よりも成人男性のアスリートに多く見られた。
・家族、同僚、コーチからのプレッシャーには、成人女性アスリートに比べて思春期の女性アスリートはよりボディイメージがネガティブ。
・過体重へのこだわり、摂食障害、不健康な食習慣、頻繁な体重測定は、青年期より成人男性アスリートが多くみられた。
・特に体重変動に敏感な女性アスリートでは、摂食障害と体重過多へのこだわりがより高く、頻回な体重測定をし、コーチからの体型に関するプレッシャーがより高い。
特に思春期の女性アスリートは、ステレオタイプな痩せ体型への願望が強く、コーチらも同じように強い。過食嘔吐、下剤の乱用、過度な運動が最も多くみられるということは、成長期真っ只中で適切な栄養が必要な女性たちが、それらのプレッシャーに直面しているといえる。
「摂食障害と窃盗症」苦しんだ元マラソン日本代表
2018年に、胸が痛くなるニュースがありました。
元マラソン日本代表の方が、繰り返す万引きで逮捕されたことです。
彼女は、
・2005年 名古屋国際女子マラソン 初マラソン優勝
・2005年 世界陸上ヘルシンキ大会 日本人選手最高の6位入賞
・2007年 大阪国際女子マラソン優勝
と日本を代表するランナーである一方、「窃盗罪」で苦しんでいたのです。
実業団に入団し、減量に追い詰められた末にいきついたのが、「思いっきり食べて、思いっきり吐く。」
これで体重は増えずに、結果は出せる。
精神的に満たされないのは当然ですよね。
努力が出来る才能があるからこそ、自分を徹底的に追い詰めてしまう。
周囲の指導者の、正しい知識や指導が必要です。
彼女は今、本人の努力と周囲の方々の支えで心身ともに回復し、自身のような事例が少しでも減るようにと、社会活動も継続されているそうです。
病院勤務時代の「拒食症」患者さん
私にも、忘れられない患者さんがいます。
私が管理栄養士試験に合格した直後に出会った、24-5歳の女性です。
受診し入院した時には、BMI15kg/m2程度だったでしょうか。
明らかな痩せ体型なのに、過活動、精神状態は躁状態といえました。
彼女は、大学3年生の時に、「ミス◯◯」に選ばれ、とても華やかな学生生活を送っていたようです。写真も見せてもらいましたが、本当に美しい方でした。
でもそれが大きなプレッシャーになってしまった。
「来年も選ばれないといけない。」
「痩せていないといけない。」
21歳の女性の精神状態は、ささいなことで崩れ落ちるのかもしれません。
一気に、摂食障害拒食症へ。つまようじで食事をし、真っ黒に日焼けするまで長時間の散歩をしていました。
私たちも、医師・看護師・心理士・管理栄養士と、ケアを続けましたが、10ヶ月の入退院を繰り返し、最後は急性心不全で急逝されました。
適切なボディイメージ、日本と海外の違い
日本はまだまだ、「痩せている方が美しい。」という印象が強い国ではないでしょうか。
フランスでは、2015年に「痩せすぎモデル禁止法」が制定され、健康的な体型と体重であることを証明する医師の診断書が必要となっています。
2017年には、グッチやルイ・ヴィトンなどのファッションブランドが相次いで、「やせすぎたモデルを起用しない」とする声明を出しています。
モデルは、社会的な影響が強い存在です。メディアに出るような人こそ、「真に健康的な」体型で、「心身ともに健やかな」あり方を牽引して欲しいですよね。
食べることは幸せなこと。適切な栄養管理、アスリートに届け。
学生から社会人、球技、ダンス、審美系スポーツなど、アスリートにとって(アスリートではなくても)、体重や体型を気にする人は多いと思います。
しかしそれが、昔ながらの指導や、他者と体型を比較するようなものであっては、誰のためのものかということになります。
アスリート自身が、自分の競技人生、自分自身の人生のために、適切な栄養・食事管理や、メンタルサポートを広く当たり前のように受けられることが望ましいですよね。
- アスリートやコーチに対して、適切な栄養・食事の摂り方やボディイメージの教育を行う。
- アスリート自身が、栄養・食事やトレーニングに必要な栄養素を理解する。
- ボディイメージに対する、ポジティブなアプローチを行う。
- アスリートの状況を正確に評価し、必要に応じたサポートを提供する。
- アスリートに対する、オープンかつ定期的なコミュニケーションを行う。
食べることって、人生において最も幸せな行為のひとつ。
そのことが苦しみになり、病気となり、死につながるようなことは、本当に残念なことです。
でもそれが、誤った知識や認識によって引き起こされるのではなく、適切な教育で多くの人に知って欲しいです。
私の学生時代も、そのような教育はほとんどありませんでした。あの時、一生懸命に自分を高めようとしていた私に足りなかった栄養と心の知識。あの時の私にも、寄り添う人でありたいと思います